西南日本の内湾でいわゆる "外道" としてよく釣れる魚にネンブツダイがいます。
雌の産んだ卵を雄が口内保育する子煩悩な魚で、その際に口をモゴモゴ動かす習性が念仏を唱えるように見えたことから名付けられたとか。
御真影。
実際に釣り人からネンブツダイと呼ばれる魚は本家ネンブツダイの他にも数種類いて、同じテンジクダイ科に属するクロホシイシモチやオオスジイシモチなどがそれに当たります。
鹿児島湾 (錦江湾) なんかだとむしろクロホシイシモチの方が個体数も多くメジャーですが、似たような赤い小魚を引っくるめてネンブツダイやキンギョと呼ぶ方が多いです。
こちらは混称としての "ネンブツダイ" の中では割とレアキャラなコスジイシモチと、同じテンジクダイ科のクロイシモチ。クロホシイシモチと同じようなポイントで釣れ、なおかつ生態も似ているクロイシモチですが、彼らをネンブツダイと呼称する例を私は聞いたことがありません。色がかなり違いますしね。
あくまで 『小物狙いでよく釣れる赤っぽくて筋模様のある小魚』が "ネンブツダイ" という認識の人も多いのでしょう。この記事では以後『ネンブツダイ類』と称することにします。
綺麗な暖色系の色をした愛らしい小魚たち、という印象ですよね。見た目だけは。
しかし、実際はアジやサバ狙いのサビキ釣りにおいて真っ先に餌に食いつく釣り人の悩みのタネでもあります。
酷い時には堤防の上で何十匹ものネンブツダイ類が干からびている悲惨な光景に出くわすことも…。必要のない殺生をする人間に釣り人を名乗る資格はないとつくづく思います。故意に生き物を殺すのが許されるのは基本的に生きるため(食用、工業などの原料)、生かすため(餌料)、学ぶため(研究)。これ釣り以前の問題ですよ。
閑話休題、今日はこの愛すべき魚たちを如何にして有効活用するかというお話です。
前述のように、釣り人のネンブツダイ類に対する評価はお世辞にも肯定的なものとはいえません。そこそこ強い引きに期待していざリールを巻けば、釣り針に連なったネンブツダイ類…というのは実際なかなか落胆ものです。
そこで出てくるのがやはり食用という選択肢。1匹1匹の魚体は小さくても、数さえ釣れれば良いご飯のお供になります。
鹿児島湾某港にて、とある春の日の釣果。ネンブツダイ類 (クロホシイシモチ、コスジイシモチ) とホシササノハベラという貧果ですが、彼らを使って美味しい料理を作りましょう。(これ以降ベラは登場しませんが、唐揚げにて賞味しました。これもまた美味い。)
まず材料から。
・頭、鱗とはらわたを取ったネンブツダイ類…約30匹
・玉ねぎ…1個
・生ショウガ…半分(おろしでも可)
・ピーマン…1個(なくても可)
・乾燥唐辛子…2〜3個(なくても可)
・片栗粉…50g
◎砂糖…50g
◎塩…小さじ1
◎醤油…100cc
◎酢…200cc
◎水…100cc
・油…適量
・美味しく食べてやるという誓い…∞
さて、ここまで用意できたところで作り方へ。
①まず魚の頭と鱗を取ります(ここ重要)。えらぶたの背中側から体高の半分ほど包丁を入れ、頭を引っ張ればあら不思議。はらわたごと取れちゃいます。はらわたが少し残ってしまったら指で丁寧に取りましょう。鱗もピーラーの要領で尾鰭側から親指の爪を滑らせると取ることができます。簡単でしょ?
②ビニール袋で揉んで魚に片栗粉をまぶします。小麦粉でもいいですが、ちょっともっさりした食感になります。
③熱した油で揚げましょう。きつね色になれば漬け頃です。
④材料の◎を混ぜた漬けダレに魚を投入します。
⑤薄くスライスした玉ねぎ、生ショウガ、ピーマンを乗せ、砕いた乾燥唐辛子をまぶします。
⑥食べ頃になるまで待ちます。私は半日以降経ったものが味もよく染みていて好きです。
⑦ネンブツダイ類の南蛮漬け、完成!
南蛮漬けって、基本的に小魚だからこそできる芸当なんですよね。
定番の小アジの南蛮漬けはもちろん美味しいですが、ぜいご(稜鱗)が硬かったり、ウロコ取りに難儀したり、はらわた取るのに手間がかかったり。
これらに関して言えば完全にアジの上を取っているんですよね。ネンブツダイ類はちゃんと役に立つ魚なんですよ!味も遜色ないし!もちろんアジの南蛮漬けも美味しいですよ…?
釣りをしていても外道のネンブツダイ類しか釣れなくてイライラ、みたいなことはあると思います。しかし、彼らを陸に放置するくらいなら、もっと実のある形でその命を頂きましょう。
奪った命は最後まで最大限役に立たせてあげるのが、釣り人…いや、人間としての使命だと私は思います。
以上、ネンブツダイ(類)と彼らを活用したレシピの紹介でした。ぜひ試してみて下さいね!