なまずのねどこ

B級スポットとか県境とか駅とか魚捕りとか。常にどこかに出かけていたい負け組大学生。Twitter→@kyoto_psycarrot

音訳以外に起源をもつ北海道の市町村名

 

このツイートが反響をそこそこいただいたので、訂正版を作ってみました。

 

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・誤って "和語・漢語由来" としていた長沼町を "アイヌ語の意訳" に訂正

・誤って "アイヌ語音訳+接頭語、接尾語" にしていた上砂川町を "和語地名(意訳)+接頭語、接尾語" に訂正

・人名由来かつ合成地名である (詳細は後述) 今金町を両者の縞模様に訂正

・大多数を占める音訳起源以外の解説用に市町村名を付記

 

訂正・追記した点はこの4つです。

下記の解説を読むにあたって、画像の市町村名を参照していただくと位置関係が分かりやすくなるかなと思います。

目録の文字色は画像中の凡例に準拠しています。

 

宗谷総合振興局管内】

豊富町アイヌ語『イペコロペッ(食べ物を豊富にもつ川)』の意訳
ほうふちょうではなくとよとみちょうです。

浜頓別町アイヌ語『トーウンペッ(湖から出る川)』+浜

浜〇〇という地名は北海道内随所に見られ、海岸沿いを意味する接頭辞となっています。

中頓別町アイヌ語『トーウンペッ(湖から出る川)』+中

頓別川の中流域にあることから。

利尻富士町アイヌ語『リーシリ(高い島)』+富士

町の象徴でもある利尻富士利尻山)から。富士は無論富士山にあやかったもので、『〇〇(地域名)富士』という形で秀麗な山容を表すのに広く使われていますね。

 

オホーツク総合振興局管内】

小清水町アイヌ語『ポンヤワンペッ(止別川の支流)』の誤訳

誤訳が地名になった数少ない例のひとつです。原義に含まれない "清" の字は、斜里町の "里" と合わせて両町から分村して発足した清里町の名に組み込まれています。

滝上町…滝の上流側に市街地があることから。

この滝は紋別市オホーツク海に注ぐ渚滑川の滝を指しています。

北見市オホーツク海に面する地域を指した『北海岸』と、晴れの日に樺太が『見える』ことから。

北見というのは元来広域地名で、市制前は『野付牛(のっけうし)町』を名乗っていました。

大空町…大空(和語)

道東の澄み切った大空を指すほかに、オホーツク管内の空の玄関口である女満別空港のニュアンスも組み入れたのでしょうか。自治体名としてはちょっとキラキラネーム感が否めないですね…

西興部村アイヌ語『オウコッペ(川尻の合流するところ)』+西

興部町の西にあることから。

清里…『小 "清" 水』と『斜 "里" 』に由来する合成地名

数ある合成地名の中でかなりネーミングセンスのある部類に入ると思います。清らかな里、いい響きですね。

 

根室振興局管内】

中標津町アイヌ語『シペッ(大きな川)』+中

標津川の中流域にあることから。

 

釧路総合振興局管内】

浜中町アイヌ語『オタノシケ(砂浜の真ん中)』の意訳

語源を同じくして音訳したものが釧路市の大楽毛(おたのしけ)という地名になっています。

鶴居村…鶴(タンチョウ)の生息地であることから。

そのまんまですね。

 

十勝総合振興局管内】

清水町アイヌ語『ペケレペツ(明るく清らかな川)』の意訳

小清水町は誤訳起源ですが、こちらは無難な訳です。

鹿追町アイヌ語『クテクウシ(鹿を狩る土地)』の意訳

「〇〇おい」という地名には音訳由来のものもあるのでちょっとややこしい。白老町とか。

池田町徳川慶喜の五男・池田仲博によって設置された『池田農場』から。

町域にJR根室本線池田駅がありますが、町の名前より先に駅の方が命名されたようです。

上士幌町アイヌ語『シューオルペツ(鍋を漬ける川)』+上

士幌町の上流に位置することから。

中札内村アイヌ語『サチナイ(乾いた川)』+中

札内川の中上流域にあることから。

 

上川総合振興局管内】

旭川市アイヌ語『チュクペッ(波立つ川)』の誤訳

今となってはメジャーな地名ですが、誤訳由来。『日が昇る川』と解釈し『旭』の字を当てた一種の瑞祥地名といえます。

東川町旭川市と同根

こちらは『日が昇る川』→『東の川』という発想です。

鷹栖町アイヌ語『チカップニ(鷹の棲むところ)』の意訳

『栖』には住処、鳥の巣などの意味があります。佐賀県鳥栖市が有名ですね。

上川町アイヌ語『ベニウングルコタン(神居古潭より上流の村)』の意訳

中川町、下川町と関係ありそうでないのが面白いところです。

下川町アイヌ語『パンケヌカナン(下の沢)』の意訳

『ヌカナン』の音訳がJR宗谷本線の糠南駅ですね。

中川町天塩川中流域にあることから。

群名(中川郡)からつけられた町名です。

上富良野町アイヌ語『フラヌイ(硫黄の臭いのする泥炭地)』の意訳+上

富良野川の上流域にあることから。ちなみに、富良野市の旧名は下富良野町です。

中富良野町アイヌ語『フラヌイ(硫黄の臭いのする泥炭地)』の意訳+中

富良野川の中流域にあることから。フラヌイ自体は活火山である十勝岳から流れ出る川を指すようです。

南富良野町アイヌ語『フラヌイ(硫黄の臭いのする泥炭地)』の意訳+南

富良野市の南方にあることから。

東神楽町アイヌ語『ヘッチェウシイ(神々の遊ぶところ)』の意訳+東

『西神楽』は旭川市の地名として存在します。

 

空知総合振興局管内】

深川市アイヌ語『オオホナイ(深い川)』の意訳

東京都江東区の深川(深川飯の深川ですね)とは関係あるようでないらしい。

滝川市アイヌ語『ソーラプチペツ(滝のある川)』の意訳

同じアイヌ語を音訳したものが地方名でもある『空知』です。

砂川市アイヌ語『オタウシナイ(砂浜についている川)』の意訳

同じアイヌ語を音訳したものが東隣に位置する『歌志内市』です。

栗山町アイヌ語『ヤムニウシ(栗の木の多いところ)』の意訳

近隣には栗丘や栗沢など同根の地名が結構あります。

長沼町アイヌ語『タンネト(細長い沼)』の意訳

細長い沼は千歳川河跡の三日月湖を指しています。地形的には北海道らしい名前ですね。

岩見沢…浴澤(ゆあみさわ)の転訛

『炭山の開拓の際に幾春別川で湯浴みをしたところ』が由来なんだとか。

月形町…樺戸集治監の初代所長・月形潔の姓から。

樺戸はこの辺りの郡名で、こちらはアイヌ語音訳由来。

沼田町…開拓功労者・沼田喜三郎の姓から。

札沼線の『沼』ですね。今は町域を通っていませんが。

三笠市奈良県三笠山から。

空知集治監の裏手にあった山が奈良の三笠山に似ていたのが由来。

北竜町アイヌ語『ウリロペツ(鵜の多い川)』の音訳+北

雨竜町の北に位置することから。

南幌町アイヌ語『ポロモイ(湾曲して緩やかに流れるところ)』の音訳+南

函館本線の駅名にもある幌向(ほろむい)の南、という意味。

上砂川町アイヌ語『オタウシナイ(砂浜についている川)』の意訳+上

砂川市から見て上流に位置することから。

新十津川町十津川村奈良県)+新

十津川村の住民が入植し新十津川村と称したことから。

 

石狩振興局管内】

千歳市…鶴が多く生息していたことに因む瑞祥地名

かつてシコツと呼ばれていた地域ですが、『死骨』に通じ縁起が悪いとして千歳に改称されました。現在は支笏湖にその名を留めています。

新篠津村アイヌ語『シリノッ(突き出た顎)』の音訳+新

新のつかない『篠津』は現在の江別市

北広島市…広島町(旧称)+北

広島県民が多く入植したことに因む『広島』に、北海道の北を付したもの。

 

日高振興局管内】

日高町…日高見(古代における蝦夷地の美称)から。

町北部が占める日高山脈から取られた地名。本州の地名では北上川(日高見が転訛→北上)が同根ともいわれています。

新ひだか町…日高見(古代における蝦夷地の美称)+新

新をつけたのは既に日高町が存在していたからでしょうか。安易なひらがな地名はやっぱり違和感が拭えませんね…

 

胆振総合振興局管内】

豊浦町…豊かな水産資源を持つ内浦湾(噴火湾)から。

旧称は『弁辺(べんべ)村』。

伊達市…当地を開拓した亘理伊達氏(仙台藩の分家)から。

福島県伊達市と同根の地名です。

洞爺湖町アイヌ語『トヤ(湖の岸)』の音訳+湖

町域に洞爺湖を抱えることから。中心市街の旧称、郡名ともに『虻田』で、こちらもアイヌ語由来です。

 

後志総合振興局管内】

赤井川村アイヌ語『フレペツ(赤い川)』の意訳

同じ地名が道南の森町にもあります。

共和町…共和(漢語)

北海道には共和とか共栄とか、 "共" や "協" がつく地名も多く見られます。共和町の場合、合併で揉めないように無難な町名にしたのかな。

仁木町徳島県から入植した仁木竹吉の姓から。

兄貴のことではない

京極町…開拓功労者・京極高徳の姓から。

かつては『東倶知安村』を称していました。

 

檜山振興局管内】

上ノ国町…現在の江差上ノ国周辺を広く指した古地名『上之国』から。

対して函館周辺の地域が下之国と呼ばれました。

…開拓功労者・今村藤次郎と金森石郎の名字から。

北海道で自治体名になっている合成地名は意外と少ないですが、その中でも数少ない人名由来の合成地名ですね。

 

渡島総合振興局管内】

森町アイヌ語『オニウシ(樹木が多くあるところ)』の意訳。

北海道で唯一 "町" を "まち" と読む自治体。 "もりまち" の方が語呂がいいからかな。

函館市…箱型の館が築かれた漁村の名から(箱館→函館)

15世紀から続く由緒ある和語地名です。古名はアイヌ語由来の『宇須岸(うすけし)』。

北斗市…北斗七星(星座名)

漂うキラキラネーム感。大空町が空を連想させる空港を擁するのとは違い、北斗七星を想起させるような要素もないですし…

八雲町須佐之男命が詠んだ日本最古の和歌に因む。

郡名は二海郡。太平洋と日本海の二つの海に面することに由来しています。

福島町…詳細は不明。古く17世紀に神託(!?)によって改称された村で、瑞祥地名などの説があるようです。

おそらく北海道の地名最大の謎。

町の公式サイトの説明が分かりやすかったので貼っておきます。

www.town.fukushima.hokkaido.jp

 

七飯町…『七重』と『飯田』に由来する合成地名

 "ななえ" と読みます。七重や飯田の地名の名残は少ないですが、道南いさりび鉄道七重浜駅(現在の所在地は北斗市)などがそれにあたります。

 

【おまけ】

地図を塗りつぶしてみると案外いろんなものが見えてきますが、最も興味深かったのが意訳や和語地名は内陸部(特に空知地方)に集中しているという点です。

こちらのリプライが秀逸だと感じたのでご勝手ながら引用させていただきました。函館を中心とした渡島・檜山地方は本州から近く、古くから和人の移住が盛んだったという経緯がありますが、道央以北の内陸部にそういった背景はおそらくないわけです。

つまり、和人による開拓時期が大まかに見て道南→道央以北(沿岸部)→道央以北(内陸部)という順になったことこそが現行地名の起源の分布に大きな影響を齎した、と考えることができます。実際、道南には和語由来、道央以北沿岸部にはアイヌ語の音訳由来、内陸部にはアイヌ語の意訳由来の市町村名がそれぞれ多く分布しています。

眺めている過程でこういったことを深く考えさせてくれるのが地図の醍醐味なのかもしれませんね。

 


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