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9月5日。道東エリアを東西に横断する。この日も懲りずに鈍行列車での大移動である。
旭川から南下する富良野線の始発に乗車。ラベンダー畑をイメージした薄紫色をあしらった車体だ。
前日に雨が降ったせいもあって、車窓からは虹を拝むことができた。
この富良野線界隈、特に美瑛から富良野にかけての地区では、ラベンダーに限らず数多の花畑が見る者を楽しませてくれる。さながら彩りの大地といったところである。
終点富良野では、山脈の狭窄部を越える根室本線帯広行き列車に乗り換える。道央内陸の諸都市から帯広・釧路方面へ向かう際の中継地点の役割を果たす駅だったが、東行きの区間はこの翌年に台風災害の憂き目に遭うこととなった。その後、現在に至るまで再開の目処は立っていない。
金山〜東鹿越間でかなやま湖を横断。道内有数の規模を持つ巨大な人造湖である。しかしこの年は降雨不足が祟ったのかかなり渇水気味のようで、干上がって湖底が露出している箇所も多かった。
東に狩勝越えを控える幾寅(いくとら)は、映画「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地、幌舞駅としても知られる。現実と虚構に2つの名を持つ駅というのも厨二病みたいでカッコいいなかなか唆られるものがある。
大雪山系南端を穿つ長大トンネルを抜けると肥沃な十勝の大地。見渡す限りの大草原が目前に広がった。九州の矢岳越え、信州の姨捨とともに日本三大車窓に数えられる狩勝越えである。急勾配を大きく蛇行しながら下り、札幌方面へ石勝線を分かつ要衝・新得を過ぎると清水、芽室と町々が続く。
程なくして帯広に到着。釧路とともに道東の中枢を担う都市であり、同時に十勝平野唯一の市でもある。
引き続き東へと旅を続ける。大河十勝川を渡り池田の町を背にすると、車窓には再び山岳地帯が広がってゆく。
厚内(あつない)を過ぎると、突如右手に太平洋が現れる。そう、太平洋である。昨日までの日本海から経てきた道のりの長さを改めて実感し、しばし感慨に浸った。
日本最東のターミナル駅、釧路。札幌方面からの特急はここで折り返し、三方向へ向かう普通列車も一旦襷を繋ぐ。阿寒湖や釧路湿原をはじめとする道東観光の基地でもあり、名物マリモが観光客の目を癒している。
北海道の東端・根室へと先を急ぐ。釧路〜根室間には花咲線という愛称が与えられたが、かなりの人口希薄地域でありかといって観光客が多いというわけでもない。車窓の外には湿原や荒涼とした海岸地形が続く。
花咲駅。有名なハナサキガニの名はこの地名に由来するといわれる。この翌年、2016年3月をもって95年の歴史に幕を下ろしている。廃止の方針は既に告知されていた。時間の都合で下車こそできなかったが、古い客車を改造した北海道らしい駅舎や駅名標を一目見ておくという目的は果たせた。
列車は、最東端の駅・東根室を出ると大きく左へカーブして終点根室駅のホームへと滑り込む。往時の繁栄は夜行列車の発着もあったほどだが、寂しいながら今となっては見る影もない。広い構内はその名残である。
そのまま釧路まで折り返し、この日の行程はここで終了。そのまま安宿にチェックインした。